魔法使い時々王子

アルシエラの部屋を出て、長い回廊を歩く。

離宮を抜け、本宮へ戻る途中の柱の影に、人影があった。

「……やっぱり」

リトが腕を組んで立っている。

アリスは思わず小さく笑った。

「心配だったの?」

近づきながらそう尋ねると、リトは肩をすくめる。

「別に。ただ、母さんが何を言ったのか気になっただけだ」

その言い方に、アリスはくすりと笑った。

「王妃様、とても優しい方ね」

リトは少しだけ視線を逸らす。

「……そうだな」

短い返事だったが、どこか誇らしげだった。

沈黙が落ちる。

やがてリトが、声を低くした。

「それより、星晶はどうするんだ?」

現実に引き戻される。

アリスは小さく息を吐いた。

「どうにかしたい。でも……私にはどうにもできないわ。父は、私の意見なんて聞く耳を持たないもの」

乾いた笑みが浮かぶ。

それでも、顔を上げた。

「でも情報は集める。シドに手紙も送る。できることは何でもするわ」

リトがじっとアリスを見る。

「またイスタリアから使者が来たら……隠し部屋から盗み聞きするくらいは、できるかしら」

半分冗談のように言ったが、その瞳は本気だった。

リトの口元がわずかに上がる。

「それなら俺も付き合う」

「え?」

「盗み聞きなら、俺の方が適任だろ」

少しだけ風が吹き抜ける。

二人の間に、秘密を共有するような静かな空気が流れた。

星祈祭は目前。

そして星晶を巡る思惑も、確実に動いている。

それでもアリスは、もう一人ではなかった。