魔法使い時々王子

アリスは地図の上に指を滑らせた。
星晶の位置を示す印は、王都から離れた山岳地帯の奥深くに記されている。

「……こんな場所に」

隣で本を読んでいたリトが、ページをめくる手を止めずに言った。

「アリスの父親は、どうして星晶に目をつけたんだ?」

アリスは肩をすくめる。

「さぁね。父とはほとんど会話を交わした記憶もないくらい、ほぼ他人よ。考えてることなんて一ミリも分からないわ。」

淡々と言ったが、その声は少し乾いていた。

そのとき、図書館の扉が静かに開く。

「アリス様」

ルーナだった。

「王妃様が、面会を求めておられます。」

その言葉に、反応したのはアリスよりもリトだった。

「俺も一緒に行く。」

本を閉じる音が、やけに大きく響く。

ルーナは一瞬だけ目を見開いたが、すぐにいつもの無表情に戻った。

「恐れながら――もしリト様が同席をご希望された場合は、アリス様お一人でとのことです。」

「え?」

アリスが素っ頓狂な声を上げる。

リトは小さく鼻で笑った。

「やっぱりな。」

「どうして分かったの? え、王妃様も魔法使いなの?」

リトは立ち上がりながら首を振る。

「母さんは魔法使いじゃない。」

少しだけ間を置いて、続けた。

「でも、恐ろしく勘の鋭い人だ。……霊感ってやつかな。」

アリスは目を瞬かせる。

「霊感……?」

「見えないものを、見てる。言葉にならないものを、先に感じ取る。俺が何を考えてるかなんて、大体バレてる。」

リトは本を棚に戻しながら、どこか諦めたように肩をすくめた。

「だから多分――」

アリスの方をちらりと見る。

「母さんは、アリスにだけ話があるんだ。」

その言葉に、アリスの胸がわずかに高鳴った。

王妃が、自分にだけ話したいこと。

それは、星晶のことか。
それとも――

「……行ってくるわ。」

アリスがそう言うと、リトは何も言わずに頷いた。

ただ、その瞳はいつもより少しだけ鋭かった。