魔法使い時々王子

アリスは部屋に戻ると、机に向かいシド宛ての手紙を書き始めた。
セオにはかつて婚約者がいたこと。二人は確かに想い合っていたのに、その縁は断ち切られてしまったこと。
――それは、まるで自分とシドのようだ、と。

そこまで書いたところで、アリスはふっと手を止めた。
次の瞬間、手紙をくしゃりと丸める。

こんなことを書いて、どうするの。
遠く離れたシドを、これ以上心配させるだけだ。

こちらは大丈夫だと、問題なく過ごしていると、それだけ伝えればいい。
そう頭では分かっているのに、再び羽ペンを取ることはできなかった。

そのとき、控えめなノックの音がして、ハンナが部屋に入ってきた。

「アリス様。今夜、セオ様のお姉様――エレオノーラ様が夕食会を開かれるそうです。ぜひ参加してほしいと」

アリスは一瞬だけ考え、静かに頷いた。

「……分かったわ」

ハンナが部屋を出ていくと、アリスは窓辺に立ち、夜へと移ろいゆく空を見つめた。
この国で迎える新しい時間。
優しさも、痛みも、まだその輪郭すら掴めないまま。

アリスはそっと胸に手を当て、静かに息を吐いた。