魔法使い時々王子

アリスは、いつの間にかアウルム図書館によく足を運ぶようになっていた。

静かな空気。
紙の匂いと、窓から差し込む柔らかな光。
そして、いつも同じ場所にいるリト。

リトは相変わらず図書館の奥の椅子に座り、分厚い本を読んでいた。
アリスは彼の向かいに腰を下ろし、何気ない会話を交わす。

他愛もない話。
ときどき交わされる皮肉めいた言葉。

それだけで、胸の奥に居座っていた寂しさが、少しだけ和らぐ気がした。

ふと足元に目をやると、リトの周りには何冊もの本が床に積み上げられていた。
どれも読み終えたらしい。

「ねえ、それ……」

アリスは小さく首を傾げる。

「そんなに積み上げてたら、片付けるの大変じゃない?」

リトは一瞬、本から視線を上げ、床に積まれた本の山を見つめた。

次の瞬間だった。

ふわり、と。
音もなく本が宙に浮かび上がった。

一冊、また一冊と、まるで見えない手に導かれるように空中を滑り、元あった本棚へと戻っていく。
背表紙は正確に、隙間なく収まり、最後の一冊が戻ると、何事もなかったかのように静寂が戻った。

アリスは目を見開いたまま、その光景を見つめていた。

「……」

そして、思わず声が漏れる。

「あなた……魔法使いだったの?」

リトは肩をすくめ、また本に視線を落とした。

その態度が、肯定なのか、はぐらかしなのか。
アリスには、まだ分からなかった。

けれど――
この図書館が“ただの図書館”ではないことだけは、はっきりと分かった。