アリスと並んで王宮へ戻り、別れを告げたあと。
シドは人気のない回廊に足を止めた。

氷を張るような冬の空気が、まだ外套の裾に残っている。
だが、それよりも胸に重たく沈んでいるものがあった。

――アリスの目。
ほんの一瞬だったが、何かを問いかけるように揺れていた。
まるで心の奥を探ろうとするかのように。

「……気づいているのか?」
低く呟き、自嘲するように口元をゆるめる。

アスタリトを出て、この国でただ魔法を振るい、人の役に立つことだけを望んできた。
過去は捨てたはずだった。
だが、避けようもなく周囲が少しずつ「繋がり」を見せ始めている。

セラも、そしてエミリーも――アスタリトから来た者たち。
アリスは、何かを感じ取っている。

「……いずれ隠し通せなくなるか」

吐き出した息は、白い霧となって消えていった。
だが胸の奥に積もる雪解けのような不安は、容易に消える気配を見せなかった。