冬の空気は冷たいが、陽光は柔らかく薬草畑を包んでいた。
王宮の裏庭――その一角にある畑では、シドとセラが並んで鍬を振るっていた。

「ふぅ……冬の畑仕事って、思ったより重労働ね」
セラが額の汗を拭い、肩を回す。

「まぁな。土が固いから余計に堀り起こしづらい」
シドは鍬を地面に突き立てながら、淡々と答えた。

薬草畑のすぐ隣では、近衛隊が剣の稽古をしている。
掛け声や金属のぶつかる音が響き、冬の静けさを破っていた。

ふと視線を上げたシドは、剣を振るうアルバの姿を見つけた。
相変わらず真っすぐな剣筋――だが、シドの胸中に浮かんだのは戦いぶりではなく、リアンのことだった。
(……リアンとは、どうなったんだ?)

「シド、そろそろ休憩にしよー?」
セラの声で思考が途切れる。

2人で鍬を置き、畑の端に腰を下ろした。

「…あ、いけない。お茶を入れたポットを忘れたわ。取ってくる!」

セラがその場を後にすると、稽古を終えたアルバがこちらへ歩いてくるのが見えた。
そして、まっすぐシドと目が合う。

「少し……話せるか」
低い声に、シドは黙って頷く。

二人は、薬草畑の裏手――人目のない場所に移動する。

「突然すまない。王宮内じゃなかなか会う事もないから……」
アルバの第一声に、シドの表情がわずかに動いた。

「リアンのことだが、」

「……ああ」

「先日、想いを伝えた。……だが、断られた」
あくまで淡々とした声だが、その奥にかすかな苦味があった。

「そうか」
シドは短く答える。口調は冷静だったが、胸の奥にひそかな安堵が生まれていた。
――理由もなく、だが確かに。

アルバは苦笑して首を振る。
「断られた。理由は……『今の自分には、その立場じゃない』ってさ」

短く息を吐いた彼の目には、諦め半分、納得半分の色が宿っていた。
「でも、俺のことを嫌いではないらしい。……それで十分だと思ってる」

シドは、不意に胸の奥が軽くなるのを感じた。何故そんな気持ちになるのか、自分でも少し不思議だった。