日常は、いつか壊れていく



自分でも、自分のことがわからなかった。

私は、17歳まで生きれたことが奇跡だと思う。

10歳くらいでも生存率はかなり低いこの心臓病。

これでも、幸せなんだ。

そう自分に言い聞かせる昔の輝良は、次々と地獄を知ることとなる。

思い出す度に、輝良の笑みがすとんと消える。前触れもなしに、突然。


『輝良ちゃん。君は、もしも心臓移植を受けれなかったら、三年以内で……』

……急に両親と共に呼び出されたと思ったら、先生から告げられた衝撃の事実。

先生が言葉を詰まらせたけど、私でも、わかるよ。

こんな、こんなに真っ白になった私の頭でも、嫌でもそれを理解してしまう。

痛い程、わかるよ。


……「死ぬよ」でしょ?


—— その頃の私は、まだ、いやもう、15歳だった。

中3だった。


そのすぐ後、輝良の両親が……。

片親が病死だとわかって病院へ駆けつけようとした時に、交通事故に遭ったと言う。


その時のことは、よく覚えていない。

涙なんて、その時だけは一生枯れないと思ったものだ。ずっと、ずっと、ずっと……。

病気のことを話したくなくて、ずっと隠していた従兄弟の大学生、19歳の優羽に病気のことがバレてしまった。

彼はとても心配性で、そんな思いをさせたくなかった。いつか死ぬから、悲しませたくないから、隠していたのに。

両親を失い、1人になる私のことなんて、誰が引き取るかってなるから、バレずにはいられなかった。

余命のことを伏せ、全てを優羽に話した。

話している途中で喘息の発作が起きて倒れるという最悪なことが起きたりした。

でも優羽は輝良が話し終わった後、輝良を精一杯抱きしめた。


『大丈夫だ……輝良には俺がいる』


力強い声だった。

その頃既に一人暮らしをしていた優羽は、仕事しながら大学で学び、輝良の病気に費やすお金も払ってくれた。


申し訳ないと言った輝良に、優羽はとにかく優しい笑顔を浮かべた。……言葉遣いが荒いくせに、本当に、本当は優しい。


『輝良は今まで他己中すぎたんだ。そのご褒美だよ』

あの言葉は、本当に嬉しかった。笑顔を浮かべながら優羽が家を出るのを見送ったら、涙が止まらなくなる位には。

余命宣告されてから、感情を顔に出さなくなった輝良。

顔に出したら……最近私の周りにずっと付き纏っている、死への恐怖が出るだろう。恐さが、顔に出てしまう。そんなんだったら、優羽が心配するだろう。もしかしたら、色々根掘り葉掘り問い詰められて、余命のことも話さなきゃいけなくなって、泣かせてしまうかもしれない。優羽が泣くところは、絶対に見たくなかった。泣かせたくなんてなかった。

元々周りに気を使ったりしていたのは、みんなにはこんな思いをさせたくなかったからだった。ただそれだけだった。


余命が後少しまで迫っていると知って、何度も泣いた。涙腺が崩壊した。病院でもいっぱい点滴を打ったり、不自由になった気がする。

でも、そんな私でも他の人のことを少しでも幸せにしたかった。

だから私は、他の人を笑顔にしようと頑張っていたんだ。今思うと、死にそうな人からの頑張りなんて、ありがた迷惑すぎるけど。

ある時私は、そういうふうに頑張って、頑張って、その人に申し訳なさそうにされた。大丈夫、全然平気……そう言う風に笑った途端に、発作で倒れたのだ。もちろんその後に申し訳なさそうに謝られた。

その人のためにとやったことが、その人を逆に悲しませてしまう。

普通の人なら、そんなことはないだろうけど、人とは違う私は、そんなことがある。

……病気だからとか、同情されたくない。

だから、高校でも中学でも、病気で、余命がある私を隠した。

何を言われても、何をされてもどうでも良かった。同情されるのが嫌だった。

友達とか、恋人とか、いらない。どうせ、悲しませるだけ。