私の命は、
残りすこし
※作家は医学については何一つ詳しくありません。病気、治療法、薬、酸素マスク等少々間違っている情報が載っている場合があります。私が病気について詳しくないとご了承ください。
* *
彼女は昔は、とても優しい人だった。
どんな時だって、人を優先していた。
感情豊かで、表情に喜怒哀楽がすぐに出て。
なのに、いつからだろう。
——いつも感情の読めない笑顔を浮かべるようになったのは。
「今日さ、〇〇先生がさっー」
「え、何それウケるんだけど」
笑い声が、休み時間の教室に響く。
そんな中、2人だけ静かに頬杖をついている生徒がいた。
笑顔を浮かべながら窓の外を見ている女子を、じいっと、顔に穴が空きそうなほど凝視しているイケメン。
彼女の名前は、高野輝良。イケメンと同い年、中3。まだ前期だから17歳。
輝良は腰まで、いや、腰より少し下くらいほどの長い髪だ。髪を解くのに時間がかからないのだろうか?俺にはわからない。ただ、解いていないことはないだろう。いつもあれだけさらさらなのだから。
いつもにこにこして、感情が読めない。怒っているところも、泣いているところも見たことがない。たまにツボって笑いまくることはあるし、たまに……ああ、今みたいに。
窓の外をにこにこしながら見ていたはずなのに、急に高野は笑みを消した。
そう、高野はたまにこうやって、真顔になる。
彼女は、何かがおかしい。絶対、何か秘密があるはずだ。
そう思って、ずっと観察を続けているが、何も手掛かりはない。
だって、たまに体調不良とかで血相を変えてイケメンの従兄弟が迎えにきて、そのままお姫様抱っこで走り去っていく。なんとも言い難い光景だった。
それに体育を全て見学している。彼女が走っているところなんて見たことがない。
そういうところに、高野の秘密が隠れているんじゃないかと、観察しているが、見つからない。
そう思いながらじっと輝良を観察しているのは、塩見氷。
イケメンで、生徒会長で、文武両道。まさに完璧。
輝良は、ずっと自分に注がれる視線になんて気付いていた。気付いていて、無視しているのである。
あれ、私、塩見くんに好かれちゃった?
……な訳ないよね。うん、自惚れるのはやめよう。恥ずかしくなってきた……。
私は、生まれつき心臓に欠陥がある。
私は難病とされる心臓病だ。それは、今でも治っていない。だから体育を見学したり、発作で従兄弟の高野優羽が血相を変えて学校へ飛び込んでくる。
そして、重度の喘息。
この二つの発作が被ったら……それはもう、地獄だ。悪夢だった。
私は先生……お医者さんに、はっきりと言われてしまった。
『君の心臓は、そろそろ限界が来るだろう。輝良ちゃん、君は、元からそうだったけれど……やっぱり心臓移植しか手はないよ』
移植以外に、可能性のある治療はありますか?
そうか細い声で聞いた私は、そんな言葉を求めていたんじゃなくて、もっと、もっと……。
いい言葉を期待していた。
いい言葉って、なんだろう。うん、あるよ、って言って欲しかったの? その治療法で、私が助かるかはわからないでしょう?
私は、何を期待していたんだろう。なんて言って欲しかったんだろう。



