「逃げていいんだよ」と彼は言ってくれた。

「多分、私の友達です。すごいイケメンに会ったってテンション高く言ってたから」

 彼女は面食いでイケメン好きだった。

「俺はすごいイケメンじゃないよ」
「先生、自覚ないんですね。すごいイケメンだと思いますよ」
「そんなことないって、ヨレヨレのシャツ着てるし」

 コインランドリーでの話を思い出して噴き出した。

「急にヨレヨレシャツとか言わないで下さいよ。もう、笑いのツボにヒットしたら大変なことになるんですから」
「藍沢さんは笑い上戸だもんな」
「そうですよ。一度大笑い出したら、止まらなくなるんですから」
「気をつけるよ。でも、俺たち縁があるね」
「そうですね。もしかしたら、高校生の私は先生とすれ違っていたかもしれませんね」
「きっとすれ違っていたよ。片思いの相手とも藍沢さんのように会えればいいんだけどな」

 片思いの相手という言葉が胸に突き刺さる。

「あ、今の話は他の人には内緒で。つい、藍沢さんには話し過ぎてしまう」

 先生が苦笑を浮かべた。

「先生、片想いの人がいるんですか?」
「うん。一度しか会ったことがないんだけど、ずっと彼女のことが心に引っかかっているんだ。彼女と会ったのは本当に偶然でね。名前も知らないし、連絡先もわからない。だけど、会いたいんだ」

 先ほどの女性たちが言っていた『友人枠』という言葉はそれほど的外れではないことがわかった。そうか。先生には片思いの相手がいるのか。そうだったのか……。

「会えるといいですね」
「ありがとう」

 胸が痛い。私の恋はもう失恋決定だ。