「逃げていいんだよ」と彼は言ってくれた。

「お待たせ」

 コーヒーを持って先生が戻ってくる。

「どうぞ」

 向かい側に腰を下ろした先生が私の前に紙コップを置く。

「ありがとうございます」
「食べようか」
「はい。どうぞ」

 先生の分が入ったパンの袋を差し出した。

「袋、分けてもらったんだ」
「その方がいいと思って」

 ズキズキと痛む胸を誤魔化すように笑うと、先生がじっと私を見る。

「藍沢さん、何かあった? 元気がないようだけど」
「そうですか。ちょっと疲れちゃって。でも、パンを食べれば元気になるんで」

 先生に気を遣わせたくなくて、明るい調子で言った。

「いただきます!」

 照り焼きチキンサンドを取り出し、食べる。照り焼きのタレとチキンが絡まっていて美味しい。先生も同じ物を食べながら「ここの照り焼き美味いな」と口にした。

「先生のお口に合って良かった」
「先生だって。ね、恋人じゃなかった」

 私の後ろの席の声が聞こえて、胸がチクッとする。