高坂さんは仕事の出来る人で、大手企業から高坂さんにデザインを頼みたいと言われるほどの人だった。だから、高坂さんから指導してもらえるのはとてもありがたく、精一杯頑張った。でも、頑張れば頑張るほど、「お前はわかっていない」「全然ダメだ」と毎日のようにダメ出しをされ、会社に行くだけでお腹が痛くなったり、勝手に涙が出るようになった。
自分の身におかしなことが起きているとは思ったけど、ただ疲れているだけだと思い込もうとした。高坂さんは悪い人じゃない。厳しいことを言うのは私に期待をしているからだって、心の声を無視して働き続けた。
でも、限界が来て、会社の最寄り駅までくると足が竦んで電車から降りられなくなった。そんなことが続いて、どうしたらいいのかわからなくなった時、あの人が『逃げていいんだよ』と教えてくれた。その言葉に勇気をもらい、私は自分の現状を正直に社長に話し、退職した。
母の強い勧めで実家にも戻った。正直、帰ってこれてほっとした。一人で生活する気力もあの頃の私にはなかった。だけど、このまま両親に甘えて実家暮らしを続ける訳にはいかない。そろそろ私は次の場所に行かなくてはいけない。そう思いながら仕事着の白いポロシャツと黒のチノパンに着替え、肩まで長さのある栗色の髪を後ろに一本に結んだ。
ドレッサーの前に座り、眉を描き、ファンデーションと口紅を塗ってメイクは終わり。鏡に映る丸顔は美人とは言えないけど、まあ、そこそこ普通だと思う。しかし、年々母に似て来た気がする。二十五年後の私は今の母と全く同じ顔をしていたりして。性格は全然違うけど。
母は積極的な性格で、父に交際を申し込んだのも、プロポーズをしたのも、母からだと聞く。ただ母は自分の気持ちに正直なだけだというけど、その情熱が羨ましい。娘の私は恐ろしいほど奥手だ。
初めて男性と交際したのだって二十六歳の時だったし、しかも相手は……。
今朝見た夢を思い出して気が重くなる。なんで誕生日の朝にあんな夢を見てしまったのか。
夢を追い出すように頭を左右に振り、立ち上がる。仕事に行かなきゃ。
自分の身におかしなことが起きているとは思ったけど、ただ疲れているだけだと思い込もうとした。高坂さんは悪い人じゃない。厳しいことを言うのは私に期待をしているからだって、心の声を無視して働き続けた。
でも、限界が来て、会社の最寄り駅までくると足が竦んで電車から降りられなくなった。そんなことが続いて、どうしたらいいのかわからなくなった時、あの人が『逃げていいんだよ』と教えてくれた。その言葉に勇気をもらい、私は自分の現状を正直に社長に話し、退職した。
母の強い勧めで実家にも戻った。正直、帰ってこれてほっとした。一人で生活する気力もあの頃の私にはなかった。だけど、このまま両親に甘えて実家暮らしを続ける訳にはいかない。そろそろ私は次の場所に行かなくてはいけない。そう思いながら仕事着の白いポロシャツと黒のチノパンに着替え、肩まで長さのある栗色の髪を後ろに一本に結んだ。
ドレッサーの前に座り、眉を描き、ファンデーションと口紅を塗ってメイクは終わり。鏡に映る丸顔は美人とは言えないけど、まあ、そこそこ普通だと思う。しかし、年々母に似て来た気がする。二十五年後の私は今の母と全く同じ顔をしていたりして。性格は全然違うけど。
母は積極的な性格で、父に交際を申し込んだのも、プロポーズをしたのも、母からだと聞く。ただ母は自分の気持ちに正直なだけだというけど、その情熱が羨ましい。娘の私は恐ろしいほど奥手だ。
初めて男性と交際したのだって二十六歳の時だったし、しかも相手は……。
今朝見た夢を思い出して気が重くなる。なんで誕生日の朝にあんな夢を見てしまったのか。
夢を追い出すように頭を左右に振り、立ち上がる。仕事に行かなきゃ。



