「逃げていいんだよ」と彼は言ってくれた。

「毛玉だらけになった五年ものの部屋着もあるぞ」

 先生が毛玉がついたグレーのトレーナーを見せてくる。それが私の笑いのツボに大きくヒットして、笑いが止まらなくなった。目に涙を浮かべて、お腹がよじれるまで笑った。

「藍沢さんは笑い上戸だな」
「先生が笑わせるから」

 目尻の涙を指で拭い、何とか息がつけた。
 こんなに笑ったのはいつぶりだろう。

「私、次、シナリオ教室で先生に会ったら絶対に笑い転げますよ。ワイシャツの下にはヨレヨレのシャツを着ているんだと思って」
「エッチだな。俺のワイシャツの下を想像するなんて」
「え、エッチって……」

 カアッと頬が熱くなる。
 服の下を想像することが突然、とんでもなく卑猥なことに思えて恥ずかしくなってくる。

「それで、ヨレヨレのシャツの下も想像するのか?」

 先生の裸がぽわんと頭の中に浮かび、恥ずかしさが全身を駆け抜け、脇の下と背中に冷や汗をかく。

「藍沢さん、顔が真っ赤だよ」
「先生が変なこと言うからでしょ!」
「来週のシナリオ教室が楽しみだな」

 クックッと先生が意地悪く笑った。

 結局私は赤井さんに頼まれたことを言う余裕がなく、先生とコインランドリーで別れた。次の木曜日、どんな顔で先生に会えばいいのだろうか。