「逃げていいんだよ」と彼は言ってくれた。

「藍沢さんの終わった?」
「はい。先生のは?」
「俺のはとっくに終わっているよ。実は藍沢さんが来てすぐに終わったんだ」

 先生が、私が使った隣の乾燥機を指す。
 乾燥が終わっているのに、洗濯物が入れたままだ。

 コインランドリー内には私たちしかいないけど、速やかに洗濯物は回収した方がいい。乾燥が終わっているのに、放置したままの洗濯物のせいで、乾燥機が使えなかったことを私は何度も経験している。他人の洗濯物を取り出して、自分の洗濯物を乾燥機に入れる人もいるけど、私は何だか恐ろしくてできない。だから、乾燥機に洗濯物を放置したままにすることがちょっと許せない。

「次の人の迷惑になりますから、終わったらすぐ取り出して下さい」

 先生が少し驚いたように眉を上げ、それから申し訳なさそうな顔をした。

「ごめん。今度からはそうするよ」

 私の注意を嫌な顔一つせず聞いてくれた先生が素直で驚いた。これがもし、高坂さんだったら、逆ギレしていたかもしれない。