「逃げていいんだよ」と彼は言ってくれた。

「そんな風に言うのはやめた方がいいですよ。勘違いする人出てくると思います」
「勘違いって何の?」

 先生が首を傾げる。

「だから、その」

 言いづらいことを聞かないで欲しい。

「もういいじゃないですか。そんなことより、私の質問に答えて下さい」
「質問返しで誤魔化したな」

 図星を言われて余裕がなくなる。

「もう、意地悪言わないで下さい」

 ぷっと膨れると、先生が笑った。

「やっぱり藍沢さんは可愛いな」

 笑いながら先生が言った。
 二度も可愛いと言われて、照れくさい。

 恥ずかしくなったり、腹が立ったりで、感情が落ち着かない。なんで私、こんなに先生に動揺しているのだろう。

「からかわないで下さい」

 乾燥機がピーという音を立てた。
 もう三十分経ったようだ。