「逃げていいんだよ」と彼は言ってくれた。

「座れば?」

 立ったままの私に先生が言った。

「失礼します」

 先生の隣に腰を下ろした。

「持って来ているのは木曜日のクラス分ですか?」
「うん。土曜日のクラスのシナリオは明日もらうからね」
「土曜日はどれくらい生徒がいるんです?」
「えーと、百人だったかな」

 驚いた。そんなに生徒がいるんだ。

「じゃあ、先生が教えているのは全部で百六十人ってことですか」
「そうだね」
「人気があるんですね」
「初心者講座だから、多いだけだよ」
「県外から来ている生徒さんもいるって聞きましたけど」

 昨日、教室でそんな話を聞いた。小早川先生に教えてもらいたくて、わざわざ電車で二時間かけて通っているらしい。

「シナリオを教えてくれる所がそんなにないからじゃないかな」
「そう言えば、どうして先生はカルチャースクールで教えることになったんですか?」

 先生がクスッと笑った。

「今日は質問が多いんだね」
「あ、すみません。ちょっと気になって」
「俺に興味を持ってくれて嬉しいよ」

 先生に気があるようで恥ずかしい。