「逃げていいんだよ」と彼は言ってくれた。

 次の日は休みで、朝から雨が降っていた。父も母も仕事に出かけていていない。

 コインランドリーに行ったのは、お昼を食べた後だった。午前中は混雑していると思ったから、洗濯は午後にした。
 どうせ新しく買うなら乾燥機付きにすれば良かったのに、母がもったいないと言って、乾燥機の機能を付けなかった。

 近くにコインランドリーがあるから、いらないと思うのもわかるけど、乾燥機付きのを買ってあげたかった。
 家賃なしで住ませてもらっているので、新しい洗濯機は少々強引に言って私が買った。

 洗濯物が入った青い袋を担いで、コインランドリーの前まで行くと、駐車場に見覚えのある黒のSUV車が停まっていた。
 まさかと思いながら中に入ると、グレーのパーカーにジーンズ姿の先生が椅子に座って何かを読んでいた。

「小早川先生」

 声をかけると、先生がこちらに顔を向ける。

「藍沢さん、奇遇だね」

 教室で会った時とは違う砕けた表情を先生が浮かべた。

「眼鏡かけてないんですね」

 立ち上がった先生が私の近くまで来た。

「今は先生じゃないから」
「そうですか」

 私は乾燥機に洗濯物を入れて、コインを投入した。

「三十分、話し相手になろうか?」

 表示パネルの数字を見ながら先生が言った。

「いいんですか?」
「先週のお礼」

 ニコッと先生が口の端を上げる。その表情が可愛い。

「じゃあ、お願いします」

 赤井さんに頼まれたこともあったし、都合がいい。