「逃げていいんだよ」と彼は言ってくれた。

 顔を上げると、腰に手を当てた赤井さんが立っていた。

「ちょっと話があるんだけど」

 険しい表情を浮かべる赤井さんを見て、先生と一緒にいたことを咎められるのだと思った。

「えっと、あの」
「来るまで待ってるから」

 一階に入るカフェの名前を口にして、赤井さんは私の返事も聞かずに教室を出て行った。

「何あれ? 感じ悪い」

 大塚さんが怒った声で言った。

「藍沢さん、行かなくていいよ。無視すればいいんだよ」

 そうしたいけど、もし私を浮気女だと誤解しているのなら、ちゃんと誤解を解きたい。

「大塚さん、ありがとう。でも、大丈夫だから」

 席を立ち、私も教室を出た。