「逃げていいんだよ」と彼は言ってくれた。

 二時間で居酒屋を出て、先生と駅前の通りを並んで歩いた。
 ほどよくアルコールが入り、歩いているだけで何だか楽しい。

「そういえば、何で逃亡中かまだ聞いてないぞ」

 先生が思い出したように口にした。

「その話はいいじゃないですか」

 半年前のことを話そうと思っていたけど、三ヶ月のシナリオ講座が終わるまでに先生が思い出すかもしれないと思った。それまで待ってみたい。

「お預けか」
「お預けです」

 クスクス笑いながら歩いていたら、段差に躓いて転びそうになった。

「危ない!」

 先生が私の腕を掴み、支えてくれる。
 先生との距離が近づいて、シトラスの香りがした。

「大丈夫?」

 そう聞いてくれた声が優しくて、不意に泣きそうになる。