「逃げていいんだよ」と彼は言ってくれた。

「おすすめはある?」
「海鮮は全部美味しいですよ。本日の海鮮五点盛りはどうです?」
「いいね」

 とりあえず、ビール、大根サラダ、海鮮五点盛り、焼き鳥の盛り合わせを頼んだ。

「乾杯」

 ビールジョッキを持って先生と乾杯する。

「くぅー。うまいな」

 眉間に皺を寄せる先生が可笑しい。
 あははと笑うと「オヤジくさい?」と聞かれた。

「いえ。本当に美味しそうに飲むなと思って。ビールお好きなんですか?」
「まあね。藍沢さんはビールで良かったの? 俺に合わせてない? 本当はカクテルとかの方が飲みやすいんじゃないの?」
「カクテルはジュースみたいなんで、ビールの方が好きです」
「お酒強いんだ」
「そこそこですかね」
「絶対俺より強い」

 そう言って先生が笑う。砕けた表情を向けてくれているのが何だか嬉しい。
 先生と二人で飲みに行くことになった時はどうしようと思ったけど、不思議と先生といると安心する。

「何だか藍沢さんといるとほっとするな」

 カウンターに片肘をついた先生が言った。同じことを先生が感じてくれていることに胸が弾む。

「俺たち、このまま付き合っちゃう?」
「え?」