「逃げていいんだよ」と彼は言ってくれた。

「美桜! 大変!」

 五時過ぎに帰宅すると、母が大騒ぎしていた。

「お母さん、どうしたの?」

 加瀬さんのこともあり、精神的にも肉体的にもかなり疲れていたから、大騒ぎする母が煩わしい。しかし、居候の身、無視もできない。

「あのね。洗濯機が壊れちゃったの。だからお願い」

 母から青い大きな袋を渡される。中には洗濯物が詰まっていた。

「お母さん、今から仕事なのよ。疲れて帰って来た所悪いけど、コインランドリー行って来てくれる?」

 仕事なら仕方ないが、疑問が浮かぶ。

「わかったけど、どうして午前中に行かなかったの?」
「今日はお友だちと苺狩りだって言ったじゃない。それでさっき帰って来たところなの。コインランドリーは帰って来てから行こうと思っていたんだけど、マネージャーに頼まれて、仕事に出ることになったのよ」

 そう言えば母が昨日から苺狩りだってはしゃいでいた。

「うん。わかった」
「よろしくね」

 慌ただしく母が出かけて行った。