「逃げていいんだよ」と彼は言ってくれた。

「思い出したから、私を好きになったんですか?」
「違うよ。思い出す前から好きになっていた。いつの間にか、あの夜の彼女よりも藍沢さんのことが好きになっていたんだ。だから俺は胸を張って藍沢さんに告白できる人間になろうと思って、シナリオを書き出した。中途半端なままの自分では、藍沢さんに告白するのも失礼だと思ったんだ」

 それほどまでに私を想ってくれたのが嬉しい。

「私も、胸を張って先生に好きだと言えるようになりたいと思いました。だから、行動出来たんです。少しでも先生に追いつきたくて。私、デザイン事務所に再就職が決まりました」

 驚いたように先生が目を丸くする。

「おめでとう! 藍沢さん頑張ったね」
「先生のおかげです。勇気が持てました」
「俺も藍沢さんのおかげで勇気が持てた。俺たち、似た者同士だな」
「ですね」

 先生と目が合う。
 熱い瞳で見つめられ、鼓動が速くなる。

「襲わないと言ったけど、キスはしてもいい?」

 頷くと、先生の顔が近づき、唇が重なる。
 心が強く結びつくようなキスだった。そんなキスを受けたのは初めてで、目頭が熱くなる。

「嫌だった?」

 唇を離した先生が、心配そうに私を見る。

「いえ。なんか感極まって。うるうるしているのは嬉しくて」

 そう言うと、もう一度唇が重なる。さっきよりも長く深いキスは私を好きだと言っているようだった。私も好きな気持ちをキスに込めた。先生が大好き。