「逃げていいんだよ」と彼は言ってくれた。

「読んで下さい」
「いいの?」
「はい」

 シナリオには初めて先生と出会った海浜公園での出来事が書いてある。『逃げていいんだよ』と先生が言ってくれたことや、広告のティッシュをくれたことなど、あの夜のことが詰まっている。

 読めば私の先生への恋心にも気づくだろう。

「この場で読んだ方がいい?」
「いえ。先生のお時間のある時に読んで下さい」
「わかった。大切に読ませてもらう」
「ありがとうございます。そろそろ帰りますね」

 ソファから立ち上がると、先生が引き止めるように私の手を掴む。

「ごめん。何でもない」

 先生がハッとしたような顔をして、手を離した。

「寂しいんですか?」
「うん。少し。病み上がりだからかな。しっかりしないとな。そう言えば、藍沢さんの言っていた好きな人って、どんな人?」
「えー、今聞くんですか!」

 いきなりの質問に顔が熱くなる。シナリオは渡したけど、まだ気持ちを打ち明ける心の準備が出来ていない。