「逃げていいんだよ」と彼は言ってくれた。

「藍沢さん、今書いているシナリオのヒロインは藍沢さんがモデルなんだ」

 えっ、私?

「完成したら、読んでくれる?」

 先生が真剣な表情を浮かべる。
 期待に鼓動が速くなる。

「……はい」
「良かった」

 先生が笑顔を浮かべる。

「あの、先生、私も」

 課題のシナリオのことが浮かんだ。

「うん?」
「『はじまり』をテーマにしたシナリオの課題なんですけど、私も、先生をイメージして書きました」

 先生が眉を上げる。

「あの、実はここで先生の看病をしている間に完成して」

 ショルダーバッグから書き上げたシナリオを取り出す。