「逃げていいんだよ」と彼は言ってくれた。

「面白かったね」

 隣に座っていた大塚さんが弾んだ声で言った。

「そ、そうですね」
「話がわかりやすし、先生イケメンで優しそうだし、初心者の講座に申し込もうかな」

 入会申込書に大塚さんが視線を落とす。私も見た。
 初心講座は三ヶ月間で、木曜日の午後七時と土曜日の午後一時に開講していた。

「土曜日は学校の用事とか、仕事がありそうだからな。やっぱり木曜の夜かな」

 大塚さんが申込書を見ながら呟く。
 私はどうしよう? 入会すれば週一で彼に会える。話も面白かったし、もう少し彼の言葉を聞きたい。でも、私にシナリオなんて書けるのかな。毎週シナリオの宿題が出るようだし。

「藍沢さん、悩んでいるの?」

 大塚さんに聞かれてハッとした。