「逃げていいんだよ」と彼は言ってくれた。

「仕事は大丈夫だった?」
「大丈夫ですよ。この三日間はお休みだったんで」
「良かった」

 先生がほっとしたような顔をする。

「泊まっていけって言ったくせに。急に心配するのはやめて下さい」

 クスクス笑うと、先生が気まずそうな笑みを浮かべる。

「穴があったら入りたい。藍沢さんにわがままを言い過ぎた」
「先生はもう少し他人に甘えた方がいいと思いますよ。私のことを気遣ってくれるのも嬉しいですけど、一方通行なのは寂しいです」

 先生が意外そうな顔をする。

「俺、藍沢さんにはわがまま言ってると思うけど。急に飲みに行きたいとかさ」
「そうですね。そういう所はありましたね」
「そういえば写真まだもらってない」
「写真?」
「車の助手席から虹の写真を撮っただろう?」

 すっかり忘れていた。