「逃げていいんだよ」と彼は言ってくれた。

「もしかして、俺に幻滅した? 藍沢さんには生活全部見られちゃったものな」

 そう言って先生が顎の無精ひげを撫でる。
 幻滅って言葉が出てくるとは思わなかったから驚いた。

「まさか。全然幻滅なんてしていません。むしろ、勝手に洗濯とかお掃除とかしちゃったので、嫌な思いをされていないかなと」

 先生が瞬きをする。

「嫌な思いなんて、全くしてないよ。藍沢さんのおかげで、清潔な服を着られているし、美味しいご飯も食べられて幸せだよ。ただ沢山働かせてしまって申し訳なくて」

「それは気にしないで下さい。私、体動かすの好きなんです。片付けを仕事にしているくらいなんですから」

 先生がハッとしたように眉を寄せる。