「逃げていいんだよ」と彼は言ってくれた。

 先生は三日目の朝にようやく熱が下がり、起きられるようになった。
 私が作ったフレンチトーストをあっという間に平らげた先生は元気な笑顔を浮かべた。

 私たちはリビングのソファに横並びで座り、朝食後のコーヒーを飲んでいた。

「藍沢さんのおかげで楽になったよ。お礼をしなきゃな」
「いいですよ。いつもお世話になっているのは私の方なんですから」
「せめて、藍沢さんに使わせた分の代金は払わせて欲しい」
「わかりました。後でレシートをまとめて請求させていただきます」
「お願いします」

 先生が満足そうな笑みを浮かべた。

 先生が元気になったら、私と一緒に暮らしたいと言った、真意を聞こうと思っていたけど、いざ口にしようと思うと言い出しにくい。あれは熱があったから、正常な思考で言った言葉ではないかもしれないし、覚えていない可能性だってある。そう思うと聞きづらい。

「藍沢さん、なんか落ち着かないようだけど、どうしたの?」

 元気になった先生は鋭い。