「逃げていいんだよ」と彼は言ってくれた。

 薬局から帰って来ると、Tシャツに着替えた先生はベッドで寝ていた。枕元に買って来たゼリー飲料、スポーツドリンク、風邪薬、体温計を置き、床に落ちている服を回収した。

 勝手なこととはわかっているけど、回収した服を洗濯した。パジャマのストックがないくらいだから、他の着替えもきっとないだろう。
 洗濯機を回している間にリビングを整え、お粥も作った。もう一度、先生の様子を見るとスヤスヤと寝ていた。
 先生が不安にならないように、体温計に【コインランドリーに行ってきます】という付箋を貼って寝室を出た。

 コインランドリーから戻って来たのは四十分後だ。
 洗濯物が入った袋を持ってリビングに行くと、先生がソファに座っていた。

「先生、寝てて下さい」
「もう、大丈夫だって」

 見え見えの嘘に苦笑が浮かぶ。

「そんな訳ないでしょ」

 額に触れると、さっきと変わらない高い熱を感じる。

「熱あるじゃないですか。体温計持ってきますね」

 体温計を取りに寝室に行こうとしたら、座ったままの先生が私に腕を伸ばし、私の腰に両腕を回した。私のお腹の辺りに先生が頭を寄せる。

「先生、どうしたんですか?」
「俺、情けないよな。昨夜、藍沢さんに好きな人がいると言われたのがショックで、熱を出すなんて」
「え?」