「逃げていいんだよ」と彼は言ってくれた。

「わかりました。症状はどんな感じですか?」
「だるい。頭が痛い。寒気がする」

 熱がある時の症状だ。

「今、薬局に行ってきますから。その間に先生は着替えて下さい」
「ごめん」
「謝らないで下さい。じゃあ」

 ベッドから離れようとしたら、腕を掴まれる。

「藍沢さん、戻ってくるよね?」

 不安そうな声で聞かれて、胸がキュンとする。

「当たり前です。三十分で帰って来ます」

 先生が安心したような笑みを浮かべる。
 こんなに弱々しい先生を初めて見る。ちょっと不謹慎だけど、私を頼ってくれて嬉しい。