「逃げていいんだよ」と彼は言ってくれた。

 寝室はリビングの奥にあった。
 ドアを開けると、ベッドと床に散らかった服がある。

 とりあえず先生をベッドに寝かせる。

「ごめん。迷惑をかけて」

 先生が苦しそうな声で言った。

「こんな時に何言ってるんですか。大丈夫ですよ。私の方が何十倍も先生に迷惑かけているんで」

 クスッと先生が笑う。

「迷惑だとは思ってないよ」
「それはどうも。着替えた方が楽ですよね?」

 ワイシャツ姿の先生が窮屈に見えた。

「もうストックのパジャマがない。今日洗濯しようと思っていたから」

 前にまとめて洗濯をすると先生が言っていたのを思い出した。

「大丈夫です。昨日お帰りしたTシャツとスエットを洗って持って来たので」

 家の中に入る時、紙袋も一緒に持って来ていた。

「もう洗濯してくれたんだ。手際がいいね」
「着替え、ここに置いておきますね。体温計はありますか?」
「ない」

 男の人の一人暮らしだと感じる。