「逃げていいんだよ」と彼は言ってくれた。

「病気の時ぐらい頼って下さい。私、そこまで頼りないですか?」
「いや、そんなことはない」
「だったら甘えて下さい」
「ありがとう」

 先生が弱々しい笑みを浮かべる。
 先生の肩を担ぐようにして支え、玄関まで先生と行く。

「先生、鍵開けられますか?」
「うん」

 先生が鍵を開け、家の中に入る。

「寝室は一階ですか? 二階ですか?」
「……二階」

 小さな声で先生が口にする。おそらく立っているのもやっとなのだろう。そんな状態で車を運転して帰って来たのだから、危なっかしい。何事もなくて良かった。先生は意外と無茶をするようだ。

「わかりました。一緒に行きましょう」

 先生を支えたまま正面の階段を上る。
 リビングは昨夜見た時よりも散らかっていた。後で少し片づけよう。