「逃げていいんだよ」と彼は言ってくれた。

「藍沢さん?」

 門の前まで来ると、先生が驚いたように私の名前を口にした。

「こんにちは。自転車を取りに来ました。先生、早かったんですね」

 まさか先生に会えるとは思わなかったので、嬉しい。

「うん。ちょっと今日は体調が悪くて」

 先生の顔がいつもより赤い気がする。

「大丈夫ですか?」
「大丈夫。寝れば治るよ」

 先生がふらっと倒れそうになったので、門の外に出て支えた。

「ごめん。ありがとう」

 先生の手に触れると、熱かった。

「熱がありますよ」
「だからだるいのか。藍沢さん、一人で歩けるから。うつったら大変だ」

 こんな時でも私を気遣う先生に腹が立つ。