「逃げていいんだよ」と彼は言ってくれた。

 私の唐突な発言を受けて、先生は両目を見開き、それから「応援しているよ」と言ってくれた。だけど、なぜか先生の表情は浮かないようだった。どうしたのだろう?

「先生、もしかして雷が怖かったんですか?」

 思い当たる理由と言えば雷くらいしかない。

「え?」

 先生が瞬きをする。

「何だか先生、元気がない気がして」
「そんなことないよ。藍沢さんと一緒にいられて楽しいよ」

 やっぱり先生は無理をしている気がする。今夜、突然押しかけて先生を疲れさせてしまったのかもしれない。

「雨も小降りになったので、そろそろ帰ります」
「送っていくよ」
「一人で帰れますから」
「もう遅い時間だし、一人では帰せないよ」

 午後十一時を過ぎていた。

「タクシーで帰りますから。自転車は明日、取りに来ますから置かせておいてくれますか?」

 これ以上、先生に迷惑をかけたくなくて、タクシーで帰ると言った。スマホは持っていたので、代金は電子マネーで払える。

「わかった。タクシーを手配する」

 先生が呼んでくれたタクシーに乗り、帰宅した。