「逃げていいんだよ」と彼は言ってくれた。

 それから俺は講師の仕事をしながら、シナリオを書いた。
 鎌倉まで取材に行ったり、資料を探し歩いたりして、あっという間に一ヶ月が過ぎた。シナリオは予定よりも進みが遅く、締め切りギリギリになりそうだったが、藍沢さんの顔を思い浮かべて頑張った。
 完成したら、藍沢さんに気持ちを伝えようと思った。そんな時、偶然、図書館で藍沢さんに会った。

 最初は声をかけるつもりはなかったが、机に向かって何かを夢中になって書いている藍沢さんの姿を見たら、話したくなった。

 気づいてくれるかと思って、隣に座って本を読み始めたが、彼女は図書館の閉館アナウンスが流れるまで気づかなかった。

 しかし、そのおかげで彼女の楽しそうな横顔をじっくりと観賞できた。何をそんなに夢中になって書いているか知りたくて、原稿用紙を取ろうとしたら、藍沢さんに叱られた。そんなことも何だか嬉しい。

 家に帰って早くシナリオの続きを書かなければいけなかったが、藍沢さんと離れがたくて、一瀬に誘った。

 思い切って、恋バナを振ってみると、藍沢さんはもう元彼のことは引きずっていないようで、俺にもチャンスがありそうだった。しかし、藍沢さんに「片思いの人に会えましたか?」と聞かれてハッとした。