「逃げていいんだよ」と彼は言ってくれた。

「旦那が迎えに来て、帰ったよ」
「そうなんですか」

 ということは先生と二人きり……。

「藍沢さん、俺と響子のこと本当に誤解したの?」

 先生が頬杖をついたまま、圧力をかけるようにじっと見てくる。
 答えなければいけない空気を感じ、正直に答える。

「すみません。バスローブ姿の赤井さんを見たら、そうかなって思って。先生と赤井さん、元恋人だって聞いていたし」
「響子はそこまで話したのか。お喋りだな。確かに恋人だったことはあったが、それはもう十年前で、しかも三ヶ月で別れた」

 十年前……。そんなに前だったんだ。赤井さんっていくつなんだろう? 私と同じ年だったら十年前は十八歳になるけど……。

「藍沢さんが思っているよりも響子は年くってるから」

 私の心の中を読むような発言に眉が上がる。

「そうなんですか?」
「俺より三つ上」

 ということは三十五歳! 私より七歳も年上!

「え! 全然見えない!」
「あいつ童顔だからな」
「私、同じ年だと思っていました」
「それを聞いたら、響子が喜ぶよ」

 先生がクスクス笑う。