「逃げていいんだよ」と彼は言ってくれた。

 脱衣室で服を脱ぎ、バスルームに入る。こげ茶色のアクセントカラーが入った白い壁は、高級感があり、バスタブも実家のお風呂より広い。

 さすがにバスタブにゆっくりと浸かるのは図々しいと思ったので、シャワーだけお借りした。入っていたのは十五分くらいだ。

 タオルで身体を拭いてからバスローブに袖を通し、置いてあったドライヤーをお借りする。四月に顎のラインで切った髪はまだ肩につかない長さだから、すぐに乾いた。

 しかし、すっぴんの顔を見てこのまま出て行っていいのだろうかと悩む。先生にはメイクのない顔をまだ見せたことがない。ショルダーバッグを持って家を飛び出したけど、メイク道具なんて入っていない。どうしよう……。

「藍沢さん、お風呂出た?」

 ドア越しに先生の声がした。