「逃げていいんだよ」と彼は言ってくれた。

「えっ、今のは、なんでもないです」

 慌てる私を見て赤井さんがクスリと笑う。

「もしかして、私が春希と不倫してたと思った?」

 茶化すように赤井さんが言った。

「い、いえ」
「響子、なんてことを言うんだ」

 先生が赤井さんを睨む。

「冗談よ。藍沢さん、バスルームはこっちよ」

 赤井さんが一階のバスルームに連れて行ってくれる。

「じゃあ、ごゆっくり」

 着替えのバスローブを置いて、赤井さんが出て行く。

 二階にも洗面化粧台があったけど、バスルームの近くにもあった。

 私は洗面化粧台の前に立ち、タオルを頭に被ったままの自分の顔を見た。笑っちゃうほど、酷い顔をしている。こんな顔で先生の所に来るなんて……。

 少し冷静になるとそう思えて来た。