「逃げていいんだよ」と彼は言ってくれた。

 会社を辞めて二ヶ月が経った頃、今の仕事に出会った。ずっとデスクワークだったから、体を動かす仕事がしたいと思い引っ越し会社の求人に応募した。私が応募したのは引っ越し作業員とは違うお助けサービス部門だ。

 引っ越しのオプションサービスになる部署で、お客様の荷物を段ボールに詰めたり、引っ越し先で荷物の開梱作業をしたりする。荷物を引っ越しのトラックに運んだり、大きな家具の移動はしない。プラスオプションの仕事なので、利用するのは富裕層のお客様が多い。一般のお客様もいるが、転勤などで引っ越し費用を会社が受け持っている場合のようだ。

 今日のお客様は後者のようだった。現場はマンションの2LDKの部屋で、引っ越し荷物が運び終わったタイミングで私と大塚さんは到着した。すぐに段ボールの開梱作業に入る。

 私はキッチンを担当し、奥様に指示をもらいながら、鍋や食器類を収納していく。

 十時にスタートした作業は十三時には終わり、大塚さんと一緒にお客様の家を後にし、駅に向かって歩いた。

「藍沢さん、何か食べていかない?」

 少しくたびれた様子の大塚さんが言った。

「いいですよ。もうお昼過ぎちゃいましたものね」
「じゃあ、そこのファミレス行こう」

 大塚さんと目の前のファミレスに入った。