「響子に頼まれたのか」
「はい」
先生が俯き、小さく息をつく。
「響子とは『アオの教室』で最初に仕事をした。それから何作も一緒に作って来た。打ち切りになったドラマも一緒だった。彼女がプロデューサーをしていた。責任を取らされた響子はテレビ局から小さな制作会社に出向になった。響子はドラマを作ると言っているが、難しいと思う。なにせ俺と響子の名前は業界では悪名になっているから。プロデューサー赤井響子と脚本家小早川春希の名前を聞いただけで、逃げていくだろ。ハッキリ言えば響子と俺は干されているんだよ」
赤井さんも苦境に立たされているとは思わなかった。いつも堂々としているから、成功している人だと思っていた。それに先生も……。
「なんでシナリオ講師をやっているか藍沢さんに聞かれて、すぐに答えられなかったのは、今の現状を打ち明けるのがカッコ悪かったからだよ。藍沢さんの前ではカッコつけたかったんだ」
顔を上げた先生が笑う。
普段よりも弱々しい笑みだった。そんな先生を何とか慰めたい。
「先生、良かったら」
私は先生の方を向いて両腕を開いた。
「え?」
先生が首を傾げる。
「私が落ち込んでいた時、抱っこしてくれたでしょ? 今日は私がしてあげます。嫌じゃなければ。あ、でも私、今日引っ越しの仕事して来たんだった。服もそのままだし。汗くさいかも」
こちらを向いた先生の腕が私の背中に回り、強く抱きしめられる。そして、私の肩の上に先生は顔を埋めた。目の前には青パーカー越しの先生の胸があった。
先生の体温とシトラスのコロンと混じった匂いを感じて、心拍数が急上昇する。先生に恋している私にとって、抱っこは危険な行為だった。しかし、今さら無理ですとは言えず、何とか数々の身体的な反応や、走り出したくなるような気持ちに耐える。
「はい」
先生が俯き、小さく息をつく。
「響子とは『アオの教室』で最初に仕事をした。それから何作も一緒に作って来た。打ち切りになったドラマも一緒だった。彼女がプロデューサーをしていた。責任を取らされた響子はテレビ局から小さな制作会社に出向になった。響子はドラマを作ると言っているが、難しいと思う。なにせ俺と響子の名前は業界では悪名になっているから。プロデューサー赤井響子と脚本家小早川春希の名前を聞いただけで、逃げていくだろ。ハッキリ言えば響子と俺は干されているんだよ」
赤井さんも苦境に立たされているとは思わなかった。いつも堂々としているから、成功している人だと思っていた。それに先生も……。
「なんでシナリオ講師をやっているか藍沢さんに聞かれて、すぐに答えられなかったのは、今の現状を打ち明けるのがカッコ悪かったからだよ。藍沢さんの前ではカッコつけたかったんだ」
顔を上げた先生が笑う。
普段よりも弱々しい笑みだった。そんな先生を何とか慰めたい。
「先生、良かったら」
私は先生の方を向いて両腕を開いた。
「え?」
先生が首を傾げる。
「私が落ち込んでいた時、抱っこしてくれたでしょ? 今日は私がしてあげます。嫌じゃなければ。あ、でも私、今日引っ越しの仕事して来たんだった。服もそのままだし。汗くさいかも」
こちらを向いた先生の腕が私の背中に回り、強く抱きしめられる。そして、私の肩の上に先生は顔を埋めた。目の前には青パーカー越しの先生の胸があった。
先生の体温とシトラスのコロンと混じった匂いを感じて、心拍数が急上昇する。先生に恋している私にとって、抱っこは危険な行為だった。しかし、今さら無理ですとは言えず、何とか数々の身体的な反応や、走り出したくなるような気持ちに耐える。



