「逃げていいんだよ」と彼は言ってくれた。

 午後三時に作業が終わり、大塚さんと別れた私は、バスで海浜公園に向かった。
 無性に海が見たくなった。

 バスを降りて、広い公園内を浜辺がある方に進むと、今日はキッチンカーが広場に何台か出ていて、浜辺には家族連れやカップルの姿があった。

 私は松林の奥にある長椅子に腰をかけ、目を閉じた。心地良い潮風に乗るように陽気なレゲエが聴こえてくる。後ろのキッチンカーからだった。

 波の音とレゲエが重なって聴こえ、落ち込んでいた気持ちが少し上を向く。再び音楽に身を任せるように目を閉じていると、さっきの言葉が頭を過った。

『デザインのことがわかるわけないだろ』

 思い出すとまた苛々してくる。
 なんでこんなに悔しいんだろう。

「もう!」
「え、藍沢さん?」

 後ろから驚いたような声がして、ふり向くと、青パーカーにジーンズの先生が立っていた。

「えっ……先生!」

 お見合いの日も海浜公園で先生と遭遇した。また先生とこの場所で会えるとは思わなかった。今日はこの間と違う場所にいたし。