「おっはよ!」

「朝から元気ねー…」

今日も蓮を乗せて、学校までの道のりをえっちらおっちら自転車漕いで進む私。
蓮はいつも以上に上機嫌だった。
やかましく話しかけてくる蓮を黙殺して、やっと学校へ辿り着く。

「はい…着いたよ…」

ああ、気温の上昇と共に、本気で余裕なくなってきた。
夏場は休業かな…。

「今日もご苦労さん」

ポンっと肩を叩かれる。
ムカツク…。

「おはよう」

息を整えていると、聞きなれない声で挨拶された。

「おはよう」

可愛い声にとりあえず挨拶を返して声の主を見ると、小柄で髪が長くて、物凄く可愛い女の子がいた。
誰だろう。見たことないな。

「おはよっ」

蓮がパッと表情を輝かせて女の子の方に駆け寄る。
あ、蓮の友達か。

「三波、紹介する。俺の彼女」

「はあ、彼女ね…」

軽い酸欠で適当に相槌を打つ私。
…て待って。彼女って言った?

「か、彼女!?」

やっと意味を飲み込んで、女の子と蓮を凝視してしまった。

「同じクラスの麻賀(アサカ) ありす ちゃん」

蓮が誇らしげに彼女を紹介する。
麻賀ありすちゃんという女の子は、ちょっと恥ずかしそうにペコリとお辞儀をしてくれた。
慌てて私もペコリと返す。

「北河君から三波さんの話を良く聞くんですよ。私ともお友達になってください!」

はにかんだ笑顔を向けられてしまった。
なぜ、敬語?
ま、いいけど。
だって、すっごく性格も良さそうだし。
蓮め。女を見る目が上がったな。

「もちろん、こちらこそよろしくね」

蓮が私をどう説明しているのか知らないけど、とりあえず麻賀さんから敵意は全く感じないので、私はホッとした。

「ありす、行こう」

蓮が麻賀さんを促す。

「あ、三波さんも一緒に」

なんて優しい言葉をかけてくれるんだ…。

「私はいつもここで涼んでから教室行くんだ。ありがとね」

バイバイ、と私は手を振った。
蓮は私などお構いなしに、麻賀さんの手を握って校舎へ向かう。
麻賀さんは、ちょっと申し訳なさそうな表情をしていた。

あ!今日の運賃貰ってない!
ま、仕方ないか…。
明日まとめて貰うことにしよう。
私は蓮と麻賀さんの後ろ姿を見送った。