その後、飯島の家から直接バイトに出た。
今日は両親が仕事だから7時上がりだ。
夕食の支度をしてやんないとな。
ところが、家に帰ると竜はいなかった。

『三波家にいるよ』

というメモが置いてあったので、すぐに迎えに行くことにした。
チャイムを押すと、竜が出てきた。
まるで自宅にいるみたいじゃねーか。
だけど、オレだってついこの前までそうだったはずだ。

「帰るぞ」

竜に嫉妬していることに気付いて、自分が嫌になった。

「兄ちゃん、沙菜っち今日デートだったんだぜ~!」

何が嬉しいのか満面の笑みで報告してくる竜。

「竜!余計なこと言わなくていいの!」

沙菜がリビングから出てきた。
あのワンピースを着ていた。

「あ…」

オレが見ていることに気付いて、さっと目を逸らす沙菜。

「デートって誰とだよ」

だけど、オレの言葉は無視される。

「竜、お父さんには言わないでね」

優しい笑顔の沙菜。
オレには決して向けてくれなくなった笑顔。

「行くぞ、竜。ちゃんとお礼言ったのか?」

「今日三波家で夕食食べる~!」

「ああ?何言ってんだよ。母ちゃん夕食作ってあるぞ」

「だって、コロッケだって言うから」

「ダメだ」

そこへリビングから沙菜の母ちゃんが出てきた。

「蓮君こんばんは。良かったら食べて行って」

「いえ、あまりご迷惑かけるわけにもいきませんし…」

「随分遠慮するようになったわね。でも由美には連絡しておいたから、大丈夫よ」

由美とはオレの母ちゃんのことだ。

「蓮君コロッケ好きだったでしょう?たくさん作ったから、是非食べてって」

思わず沙菜を見てしまった。
オレがあがり込むことを、沙菜は良しとしないだろう。