「名前はね、木田慶一(キダ ヨシカズ)君っていうんだけど、知ってるかな?」

「全然わかんない」

ついでに、ありすちゃんの意図もわかんない。

「私と蓮君と沙菜ちゃんと木田君の4人で、どこかに出かけない?」

「え~と、なんでそうなるのかな」

なんかややこしいことになりそうで嫌だな…。

「その方が、蓮君を誘いやすいから…」

小さな小さな声で、申し訳なさそうに言うありすちゃん。

「デートするための大義名分がほしいってこと?」

「うん…。ダメかな…?」

「普通にありすちゃんから誘えば、北河君は喜んで応じると思うんだけどな」

これは私の正直な感想。

「だって、付き合い始めたのに土日シフト開けてくれなかったのがショックで…。
誘うにしても来月になっちゃうし『私の為にお休みとってほしい』なんて厚かましいお願いできないよ…」

蓮の大馬鹿者めが。
こんなかわいい彼女に気を使わせて、なにやっとるんだ。

「でもさ、やっぱり初めてのデートは二人きりが絶対良くない?
私と、その木田君って人がいても、邪魔なだけだと思う」

そもそも、その木田君とかいう人は、本気で私を気にしてるんだろうか。
そこがまず怪しい。
だって、顔も知らないんだから。

「沙菜ちゃんそんなこと言わないで」

ありすちゃんは縋るような目で私を見る。
う…、そういう目されると弱いんですけど。

「お願い!今回だけでいいから、協力して。
もし、勇気を出して誘っても、バイト選ばれたら私立ち直れない」

「いやいや、大丈夫だってば」

どうしてもこの厄介事から逃れたい。
蓮の彼女と深く関わっても、ろくな目に合わないんだから。

「お願いします!お願い!」

深々と頭を下げられてしまった。

「ありすちゃん!困るっ!頭上げてよ」

「沙菜ちゃんだけが頼りなの。今回だけ!」

頭を下げたままのありすちゃんから拝まれてしまった…。

「わかった、わかったから」

懇願されて、結局応じてしまう私。

「本当?」

ガバッと顔を上げたありすちゃんの目はウルウルしている。

「うん。でも今回限りにしてね。
そんなこと気にしなくても、北河君はありすちゃんに夢中だから」

「ありがとう!沙菜ちゃん!」

ありすちゃんは、私の手を握って感激してくれたけど。
私は後に、今日の判断を後悔することになるのだった。