「なに?そんなこと気にしてるの?あいつ、なんかやらかした?」

「ううん、そうじゃないんだけど」

パタパタと手を振って、ありすちゃんは慌てて取り繕った。

「ちょっと気になって…」

「どうして突然?」

「あのね、私たち、まだデートもしてないの」

「そうなんだ」

交際経験のない私には、それが異常事態かどうかさっぱりわからない。

「蓮君、全然誘ってくれないの。もしかしたら、私がつまらないのかなって思って…」

「いや、それはないでしょ」

即否定した。

「あいつ…北河君のこの1ヶ月の浮かれ具合、ハンパじゃないもん。
ありすちゃんと付き合えて有頂天だよ、絶対」

自身を持って伝える私。
蓮は毎日超ご機嫌だからね…。

「そうかな…」

不安そうなありすちゃん。

「ありすちゃんかわいいから、学校中見せびらかして歩いてるし」

私がそう言っても、ありすちゃんは納得できないようだ。

「でも、じゃあどうしてお休みの日に誘ってくれないのかな」

「バイトしてるんじゃない?」

なにげなく答える私。

「沙菜ちゃん、知ってたの?蓮君がバイトしてること」

ありすちゃんの顔色が微妙に変わる。
あれ?受け答え間違えたかな。

「うん。だって北河君、バイトしてるの隠してないでしょ?」

蓮は高校入学してすぐにアルバイトを始めた。
人のことを鐘の亡者呼ばわりしておきながら、実は部活にも入らず扶養内限界まで働くバイトの鬼なのだ。

「蓮君のバイト先も知ってるの?」

「うん」

反射的に頷いてから、自分の失敗に気付いた。

「蓮君、沙菜ちゃんには教えるんだ…」

やばっ!
ありすちゃん知らないんだ、蓮のバイト先。

「教えるというか、忘れ物届けさせられたことがあるだけだよ。ほら、うちが隣だから」

弁解してみたけど、通じただろうか。
不安だ…。