ください、と言おうとした私は、カジノの前で止まった黒ぬりの車にそこはかとなく既視感を抱いて、視線がくぎづけになる。
運転席から降りた男性は、すぐに後部ドアの前まで移動して、白い手袋に包まれた手でドアを開けた。
ていねいに頭を下げるようすからも、そこから降りてくる人がただ者ではないとわかるけど。
黒街に住む人なら誰もが知っている、気だるげな空気をまとった黒髪の男性が車から出てくると、さすがのチャラそうな人も「え」と声をもらした。
「く、國帝さま…」
この世のすべてに興味がなさそうな、冷たいグレーの瞳がこちらを見る。
私の腰を抱くチャラそうな男性の手から力が抜けたことに気づくと、やった、と内心でよろこんだ。



