「車」
「あ…ありがとうございます」
まさか、一緒に乗せてもらえるなんて。
おどろきつつも、ほおをゆるめて、私は使用人さんがついでに用意してくれたかわぐつを履き、玄関を出る帝さんのあとに続いた。
座席がふかふかで、上品ないい香りがただよう車のなかは、朝食のときとおなじく無言。
後部座席のはしと はしに座って、まんなかに1人分の空間がある、帝さんの近寄りがたさを表したようなこの距離感で、私は話題を探していた。
「あのぉ…帝さん」
「…なんだ?」
「えぇと…どうして私を家に住まわせたんですか?秀でたところがあるわけでもないのに、カジノでも雇ってもらえましたし…」
お母さんが亡くなって、ショックだった。
でも、悲しみを追いやるように、生活の危機もせまっていて、これからどうなるんだろうって不安な気持ちもあったんだ。
お兄ちゃんだけ黒街から出ていける、ってなったときも、私1人でどうやって生活すればいいんだろうってこまった。



