「チップを置くのをやめてください。これ以降、チップにお手を触れないようお願いいたします」
ルーレットのディーラーとして決まった言葉を言いながら、テーブルをかこむお客さまのほうに目を向けて、あ、と遠くの存在に気づく。
いくつかのテーブルをはさんだ向こう側に、ワインレッドのスーツを着た帝さんが歩いていた。
カジノの支配人として、いつもの見回りをしてるんだろう。
通りすがりに方々をながめている帝さんが不意にこちらを見た気がして、ぺこ、と会釈してから目の前のテーブルに意識をもどす。
ホイールの内側に転がりこんだ球は、赤と黒が交互にならぶマスのなかに何度か入ってはもどってをくり返し、やがて頭上に33と書かれたマスへ からんと落ちた。
色は…黒。



