「そう?わるいね~」


「いえ。どうぞごゆっくり」


「あ、茜…」




 茜は接客スマイルを浮かべたまま、さっと離れていってしまった。

 その姿を目で追っていれば、他のクラスメイトが茜に、ぐっと親指を立てているようすが見える。




「いい友だちだねぇ。小笠原(おがさわら)(あかね)ちゃん、だったか」


「え…あ、はい。1年のときから友だちなんですよ。さっきもあのお客さまから かばってくれたりして、かっこよくて」




 友だちをほめられた うれしさで、笑みを浮かべて答えると、廉さんはうんうんとゆるく笑いながらうなずいた。

 話題にあげてから、そういえば、とあのお客さまが置いていったお金の存在を思い出す。




「あのぉ、あのお客さまが置いていったお金、お代よりうんと多くて…帝さん、お代の残り、いりませんか?」


「…いらない。売り上げに入れておけ」


「んぇ…わ、わかりました…」