お客さまの前だから、あわてて呼び方を変えると、帝さんは無言で私に手を伸ばした。
うん?と首元にせまる手を見ていたら、蝶ネクタイの位置が直される。
「ありがとうございます」
はにかんで笑うと、帝さんはうなずいて私から離れていった。
さっそうと助けに来てくれて、すぐお客さまを大人しくさせちゃうなんて、さすが帝さん、かっこいいなぁ。
ゆるむほおを接客用に引きしめて、私は「失礼いたしました」と他のお客さまに声かけし、テーブルにもどった。
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ひと騒動があった前半の仕事を終えて、従業員用通路にもどってくると、うしろから「ねぇ」と通る女性の声が聞こえる。
「はい…?あ」
「あなた、支配人と一緒に暮らしてるそうじゃない?」



