裏SNS " F " - 友か、秘密か -

放課後。

教室は、
昼間の熱気を残したまま、

ゆっくりと空気が抜けていくように静かだ。



萌子は
鞄を机に置いたまま、

イスに浅く腰掛けて
スマホをいじっていた。



動かしていた指は、
何度もタイムラインを遡り、

あの投稿を見ては閉じ、
また見ては閉じている。



【 榊原萌子は桐島 翔に告白してフラレた 】



誰が、どんなつもりで投稿したのか。
想像すればするほど、
胸の奥がちりちりと熱くなる。



( まじでふざけんなよ…… )



怒りと悔しさ、

そして見透かされたような
居心地の悪さが混ざり合って、

机の角に爪が食い込んだ。



……それなのに。



視線の先。
自分の席に座る翔は、
まるで何もなかったかのように

教科書を閉じ、
ヘッドホンを耳にかけていた。



無表情のまま
ただ音楽を聴いているのか、

それとも現実から
距離を取っているのか。



萌子が

その様子を睨むように見ていると、
教室のドアが開いた。

一ノ瀬 悠が入ってくる。



周囲を気にするそぶりもなく、
自分の席へ向かおうとする一ノ瀬。

それに気づいた翔が、
顔を上げた。



「 お、悠ー。帰んの?」



悠は足を止める。
ほんの一瞬だけ翔の顔を見て、
わずかに眉を動かした。



「 ……まあ、そんなとこ 」



その返事は、
素っ気なくも拒絶ではない。



翔は気にする様子もなく、
立ち上がって悠の隣に並ぶと、

そのままふたりは
教室を出て行った。



何気ない会話が交わされる。

声は遠くて
内容までは聞き取れないけれど、

距離感が近い。自然な空気。



( ……ふたりって、
あんなに仲良かったっけ?)



萌子は思わず眉をひそめた。

悠が誰かと親しく話すのも珍しいが、
それが翔だというのが、

どうにも意外だ。



そして何より、

その軽さを
何のてらいもなく振る舞える翔に、

またひとつ
苛立ちが積み重なるのを感じた。



「 萌ちゃん 」



そのとき、
優しい声が横からかけられる。

振り返ると、
立石 葵が心配そうに
こちらを覗き込んでいた。



「 今日の投稿、あれ、ほんとひどいよね。
……平気?」



その目は真剣だった。
萌子は小さく笑って、肩をすくめて見せた。



「 うん、大丈夫。ありがとね、葵 」



舞と同じ中学だった
葵との関係は、

いわゆる " 親友 "
とまではいかないけれど、



ほどよい距離で信頼できる、
そんな安心感があった。

だからこそ、
葵の声は素直に受け取れる。



「 ほんと、無理だけはしないでね 」

「 うん 」



葵が軽く微笑んで
席に戻っていく。

その背中を見送ったところで、
ふと、教室後方にいる彼が目に入った。



( ……珍しい )



花山 響。

いつも静かに周囲を眺めているか、
または本を読んでいるかの彼が、

珍しくスマホを開いてスクロールしていた。



指の動き的に、
" F " の投稿を見ているのだろう。

視線は鋭く、
画面の中の何かをじっと観察している。



( ……花山も、" F " に興味持つんだ )



萌子は何気なくそう思いながらも、
どこか落ち着かないものを感じた。



その直後、" F " の通知が鳴った。



【 投稿主 ◇ 匿名 / TARGET ◇ 南雲 しずく

南雲 しずくは宮下 澪と幼なじみである

Point ◇ 270pt 】



「 えっ、なにこれ?」



教室に戻ってきた舞が声を上げ、
スマホをのぞき込んでいる。



「 マジで?この間のやつは嘘っぽかったけど 」

「 でも確かに、このくらいなら納得〜。
てか、今まで隠してたの?え、何のために?」



盛り上がる舞の声に、
萌子も思わず笑いがこぼれる。



視線を上げると、
教室前方で澪が固まっていた。

スマホを握りしめ、
表情を強張らせている。



その席の前には、
財布を持ちながら、無言で立っているしずく。

今からふたりで
購買にでも行くところだったのだろう。



( ……マジじゃん )



萌子は心の中で、
どこか冷静にそうつぶやいた。
人は、秘密を持ってる方が面白い。

それが暴かれた瞬間の顔を見るのが、
一番スカッとする。



「……なんか、あれじゃん。
澪って意外と隠し事多い系?」



舞が小声で言ってくる。



「 ほんと、それ。めっちゃウケる 」



ふたりで顔を見合わせて笑う。
その瞬間だけ、昼間の苛立ちが和らいだ。